18scott「Fallin'」J-HIPHOPをこう楽しんでるとそこの貴方に伝える記事

実を言うと私は音楽ジャンルとしての日本のHIPHOPをずっと追い続けています。しかしSNSのフォロワーの中でHIPHOPの楽しみ方がよく分からないがために、私が何に盛り上がっているというのかがイマイチ伝わってない気がして少し悲しく思えたので、「日本のHIPHOPを私はこのように楽しんでいる」ということを伝えるための補助として、HIPHOPの経験値が全くないビギナーがその楽しみ方を分かるような記事を書くことにしました。 実はHIPHOPを楽しむのに前提知識は必要なく、知りたくなったら後でSNSを見たりググったりするとより楽しめるかもしれない程度のものなので、本当HIPHOPを聴くことに対して構えずにやっていいです。

今回取り上げる曲はコチラです。

Fallin' by 18scott

なぜこの曲を取り上げたのかというと2024年に聴いた日本のHIPHOPの中で私にとって最もカッコよく感じ、喰らった曲のひとつであることに加え、近年の日本のHIPHOPが備えている面白さをほぼ網羅しており、HIPHOPの楽しさを伝えるにはもってこいの楽曲だと思えたからです。

なお今回は再生時間ごとにこういうことを面白いと思っているというポイントを示していきます。

[0:00〜]

「Fallin' Fallin' Fallin' for you」という声が聞こえます。これはいわゆるサンプリングというもので、他の曲から音声を持ってきているものと思われます。なおどんな曲から引っ張ってきたかは(仮に)知ってても言わないようにします(元ネタに言及する行為はサンプルスニッチと言って、万が一サンプリングする許諾を取っていない場合には元の曲の権利者が騒ぎ出すきっかけになる場合があるからです。実際に許諾を取っているか取っていないかは外からの判別が困難で、法的にはマズイ事で成立している可能性すらありうるのがHIPHOPというジャンルの特徴でもあります)。

[0:17〜]

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「ストーリー」という部分に被さるように「Let's Go!」という声が入っています。こういうのをガヤといい、曲に賑やかさを持たせたりラップの間を埋めるために入れたりするのですが、この曲には頻繁に「Hoo!」「ハイ!」などのガヤが入っています。ガヤだけを聴いてみるという聴き方もあり、慣れてきたらそういうことをしてみるのもいいと思います。

[0:19〜]

重たくブヨっと伸びたようなベース音(楽器のベースよりも低いです)が鳴ります。この曲は当然HIPHOPな訳ですが、ハイハットのパターンと合わせてHIPHOPの中のサブジャンルで言えば(現在のHIPHOPの主要ジャンルの一角を占める)drillであることがわかります(drillもさらに細分化できるのですが、ビギナーが曲を楽しむ上ではそこまで無理に分かる必要はありません)。drillというジャンルの特徴としては言葉の詰め方が特に細かいことが多く、ラップというジャンルの中でも特に字数が多い傾向があります。またdrillはこことここで韻を踏んだ、とリスナー側で無理に韻探しをしなくてもしっくりくるグルーブを見つけやすいジャンルだと思います。

[0:20〜]

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上段は「『悔い』を残さない」と「出る『杭』」をかけています。このように巧みに言葉をかけることを近年のラッパーは技法として取り入れている場合も少なくないです。

下段は「Salomon」というブランドの靴を履いているけどNIKEのスローガンの「Just Do It」のようにやるだけなんだ、という気持ちを吐いています。ブランド名がそのまんま出てくることが多いのもHIPHOPのジャンルの特徴と言えます。なお私はファッションブランドには全く明るくなく、実はSalomonも知らなかったのですが「Just Do It」というNIKEのフレーズや「足元」というリリックから「Salomon」が靴のブランドであることをなんとなくそういう事だろうなと推測しています。

このようにリリックを完全に理解できない部分があったとしても前後の内容から推測して楽しんでいくことが可能なのはありがたいです。

[0:41〜]

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コカインは鼻から吸引しキマるもので、人生は一度きりという定番のフレーズにアングラなユーモアで彩りを加えています。

[1:08〜]

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「理想」「人」「一生」「きっと」「ヒント」「ビンゴ」「ピント」「Peaceを」でライム(押韻)しています。ライムに関して言えば聴感上整って聴こえることが何より重要なので、「『理想(iou)』と『人(io)』では最後のuが踏めてないんじゃない?」「『ピント』『Peaceを』って厳密には踏めてないよね」という指摘はあまり意味を為しません。

[1:45〜]

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これは歌詞カードを見ながら聴くと分かることなのですが、実は「潮の満ち引きのように」とは全く言っておらず「この声が届くように」と言っています。このように理由は不明ながら本来の歌詞と異なる(本来の歌詞を伏せる)ケースが稀にあるため、(逆に)歌詞カードを見ながら聴くということの楽しみが生まれることになります。

私からは以上にします。他にも説明していない箇所にも良いところがあるので、それを何回もリピートして味わっていただけたらイイ体験になるかもしれません。そしてこの曲とブログ記事をキッカケに日本のHIPHOPを少しでも聴く習慣が生まれてくれたら嬉しいと思います。それでは。