『ニチアサ以外はやってます!』2巻に用いられた技法について記す

今日(3月27日)『ニチアサ以外はやってます!』の完結巻となる2巻が発売されました。

『ニチ以』はわずか2巻で終わってしまうのが心底惜しまれる程に、テクニカルな4コマ漫画です。それは前回の記事(https://t.co/r9AcOPuSr3)でも触れた時も同様に技巧的でした。今回の記事も『ニチ以』の2巻にて作者である猫にゃん先生が用いた技術に焦点を当てつつ、何を狙ったものかを探っていきます。

 

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「ニチアサ以外はやってます!」2巻36ページ、37ページより

宙に浮いた帽子を取る動作とバスケットボールのレイアップを掛けており、この少女(海城あかね)は憧れに手を伸ばす人、もしくは困っている人に手を差し伸べる人であることを印象付けます。このように同じ回で類似の構図を反復し、印象付ける手法は#15、最終話などでも見て取ることが出来ます(他にもあるかどうかぜひ探してみてください)。

 

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「ニチアサ以外はやってます!」2巻49ページより

扉を隔ててお互いに言葉を投げていますが、2コマに分けて2人のセリフもそれぞれ別のコマに配置させ、2人の間がコマ枠と扉に阻まれているように見せることにより、互いの気持ちが通じていないことを印象的に見せる効果を持たせています。

 

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「ニチアサ以外はやってます!」2巻99ページより

いろいろなものをコマ枠に見立ててきた『ニチ以』ですが、今回は高層オフィスビルをコマ枠に見立てています。巨大なヒーローをビル越しに4コマ+見切れた1コマに分割することで読者は4コマ漫画を読むように上から下に巨大なヒーローをゆっくりと眺めていくことになり、その姿の雄大さをじっくりと味わうことになります。『ニチ以』はコマ枠を用いて時間的な演出までも自在に操ります。

 

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「ニチアサ以外はやってます!」2巻102ページより

2〜3コマ目を真ん中に線が引かれているかのように白とグレー(黒)に分けることでコマの中央に意識を向けさせ、4コマ目の中央に置いたセリフへまっすぐ向かっての視線誘導を狙っています。4コマ目は単体で見ると本来であれば1つのコマを分割し右→セリフ→左の順に読ませるような配置になっているのですが、このように前のコマを用いて中央を意識させることによりアニメやゲームのカットインのように見せることに成功しています。

 

他に『ニチ以』2巻の技術的な箇所で触れておきたい所としては、今から10年前4コマ漫画雑誌に連載が始まり、数々の先進的な表現を編み出していった、いわば『ニチ以』の先達とも言える『たらちねパラドクス』(塀先生)の手法を用い、オマージュを捧げている箇所でしょう。猫にゃん先生も『たらちねパラドクス』を教科書としていることを塀先生とのTwitterスペースでの対談にて公言しており、『たらちねパラドクス』未読の方には『ニチ以』のどの辺にオマージュが含まれているのか探しつつ読んでみることをお勧めしたいです。この作品を教科書とするならば『ニチ以』が技術を駆使した作品に仕上がっている事にも自然と合点が行くと思います。

 

技術に関する話はここまでとします(読んで下さったことに感謝します)。

私見にはなりますが、『ニチ以』の軌跡を振り返ってみると、フォーマットとして4コマ漫画を選んだのも、読者を唸らせるスキルフルな作品を描いたことも、作中で『グレーゾーン』(4224先生作。『ニチ以』1巻の#12は『グレーゾーン』を下敷きに描かれた傑作エピソードです)や塀先生へのオマージュを捧げたのも、元ネタを知らない人にいつ仕込んだかを悟らせないような特撮作品のネタ捌きも、全て猫にゃん先生自身が「好き」な気持ちに忠実だったことの表れのように思いました。だからこそ私は『ニチ以』に「4コマ好きが描いた4コマ」として、ただならぬ好意を持って受け止めることができたのだと思います。それはきっと私だけでなく、『ニチ以』が刺さった読み手の中からその精神性を受け継ぐ作品を描く人すら生み出してしまう程に強烈な熱を持ちうる「好き」だったのではないかと見ています。

最後に素晴らしい作品を描いて下さった猫にゃん先生に向けて最大級の感謝を述べて終わりたいと思います。この2年間、『ニチ以』を描いて下さってありがとうございました。とても刺激的でした。