「ニチアサ以外はやってます!」の刮目すべき変則コマ割りについての諸々

皆さんは本日(2022年3月25日)発売されたばかりの4コマ漫画、『ニチアサ以外はやってます!』を既に入手しました??気鋭の4コマ漫画家、猫にゃん先生が生み出した珠玉の一冊です。

「まだ読んだことない」って人はニコニコ漫画で途中まで試し読みできるので見てみて、全てを理解した人は今すぐ書店に走りましょう。時間がなさすぎる人は公開されている今のうちに12話だけでも見てってください。明らかに凄いものを目の当たりにして震え上がりましょう。

ニチアサ以外はやってます! / 猫にゃん おすすめ無料漫画 - ニコニコ漫画

この4コマ漫画は一言で言うと特撮作品を作る部活動の話をしています。ですが、私は特撮に明るくありません。そもそも第一のターゲットである特撮ファンがこの作品を存分に楽しみつつもなぜか時折怪訝そうな目を向けている理由なども知らないままです。

じゃあなぜ特撮の知識が十分に備わっていない私が何故こうしてブログを書く程までにこの4コマ漫画に引き寄せられているのか、ということなんですよ。それはこの作品に(実に短い期間で何度も形を歪めては研いでを繰り返してきた)4コマフリークとしての感性を刺激されてやまないからに他なりません。

今回は『ニチアサ以外はやってます!』の変則コマ割りについて取り上げて、どういう仕組みがあるのかなどを探っていきます。

 

f:id:LadyXLadyPump:20220325122720j:imagef:id:LadyXLadyPump:20220325122726j:image「ニチアサ以外はやってます!」1巻11〜12ページより

11ページの4コマから12ページの1コマまでを引用しました。11ページの4コマ目を分割して動作を切り分けるように描き、(次へと繋がる12ページの1コマ目と同じように)それぞれコマ枠に手をやることで動作が繋がってるように見せ、ドアを開けて広がる光景を読者により印象付けて味わわせています。これは物理書籍の1巻だと分かりやすいですが、次のページをめくる時の読者の動きキャラクターのドアを開ける時の動きを連動させています。猫にゃん先生は全くのルーキーであるにも関わらず、ゲスト1話の時点で単行本になった際に最も映えるギミックを仕込んでいることに気付いた時には驚愕したものです。

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「ニチアサ以外はやってます!」1巻35ページより

スマートフォンを小さな1コマ目と2コマ目に分割して描くことでスマートフォンの画面を上から下へ眺めていく時間の流れがあるように見せています。後述することとも併せて、『ニチ以』は時間を操る術に長けていることが窺えるシーンです。

f:id:LadyXLadyPump:20220325124209j:image「ニチアサ以外はやってます!」1巻62ページより

フィルムをコマ枠に見立てています。『ニチ以』はコマ枠への意識が強い作品であることはこれ以外のコマでも無数に示されています。このコマにおいて特筆すべき点は、「太い黒枠内に書かれた内容は過去の回想を示す」という漫画の描き手読み手双方に通じる共通認識と、フィルム内が不鮮明になっていることの両方が備わっていることから、フィルムの内容が過去の回想であることが伝わるようになっている点です。フィルムという物体の特性に加え、黒というカラーにまで意味が通っていることになります。

f:id:LadyXLadyPump:20220325125043j:image「ニチアサ以外はやってます!」1巻98ページより

1コマ目と2コマ目で貼り紙が貼られたドアの位置が異なること、3コマ目と4コマ目にドアが2分割されていること、3コマ目のドアを閉じた「バタン」の音と4コマ目で座り込んでいる女性(芹沢猪里)の姿から、ほぼ同じ地点から見える出来事を描いていることが自ずと分かってきます。

セリフなどを考慮せず絵だけを見た場合は3コマ目と4コマ目が同一の時間にあり、それを単純に2分割しているように見えるはずなのですが、4分割でそれぞれ違う状況を見せる4コマ漫画の性質を織り込みつつ擬音やセリフを配置したことで絵的には繋がっているはずの3コマから4コマの間にも時間が流れているように見えます。つまるところ何が言いたいのかと言うと、こうしたテクニックは『ニチ以』12話、ページ数で言うところの102ページ(敢えてこの画像は引用しません、理由は12話を目撃した人ならば言わなくても知れることです)に存在する、一つの絵から異なる時間が流れているように読ませる技法を構成する要素のひとつとしても存在しているということです。

f:id:LadyXLadyPump:20220325143236j:image「ニチアサ以外はやってます!」1巻113ページより

コマ枠がどこにあるか注目しながら見て欲しいのですが、時間の経過状態をコマ枠での表現に委ねるやり方が実に巧みであり、濃密でムーディなシーンを演出しています。またコマ枠で時間の経過を意識させつつも、3コマ目の「…なぁあかね君」の吹き出しをコマ枠から下方向へはみ出たせることで4コマ目への連続性を持たせています。こうしたバランスの取り方を猫にゃん先生はさも当然であるかのように慣れた手つきでこなすのですが、こういうところを機能させ切れず伸び悩む4コマ漫画も案外多いように思っているので、細かい所かも知れませんが上手いと感心してしまいます。

…私からはこの辺にしておきましょう。他にも『ニチ以』の凄いコマに関して言えば、見ようとして探せば見つかるものなので、皆さんも手元に1巻を用意しつつじっくり見て、「4コマ漫画はここまでできるものなんだ」としみじみ戦慄してください。ゆくゆくはこの4コマ漫画に範を取った漫画家が4コマの表現をさらに発展させ、広げてゆく所を心の底から見たい…なんてことを思わずにはいられません。