はなまるスキップという「今」っぽい作品が見違えた瞬間

「はなまるスキップ」という、現在まんがタイムきららに連載されている4コマ漫画作品があります。特徴としては時事ネタやメタを積極的に取り入れたギャグ漫画で、パッと読んでいくとまさしく「今」の時代に連載されている作品だという印象を抱くと思います。(未読の方はニコニコ漫画で試し読みできますので、この記事を読む前に試し読みをした後、単行本1巻を入手して頂けたら嬉しいです。)

はなまるスキップ / みくるん おすすめ無料漫画 - ニコニコ漫画

 

しかしこの漫画には奥行きが潜んでいる事を読者たちが気付き始める事件が起きました。

あれは確か今年5月末頃から6月上旬頃にかけてでしょうか。「はなまるスキップ」について語るブログ記事の大群が期を見計らったかのように一斉にインターネットに解き放たれ、その事に呼応するかのように読者たちの「はなまるスキップ」への理解度と熱量が跳ね上がっていったのは。

それらの記事全てをスマートに紹介する事はブログ初心者の私には大変厳しいので、ここでは一つの記事だけ紹介させていただきます。あの時はこの記事が口火になったのだと思います。(素晴らしい記事なので未見の方はぜひご一読ください。)

漫画紹介「はなまるスキップ」~キュートな悪童共は今日もぽかぽか暮らす〜|ペッタ~|note

当時の私は毎日のように投下される「はなまるスキップ」を取り扱ったブログ記事の内容の濃さや、筆者達の熱量や筆力の強さに感服しつつも、「はなまるスキップ」がギャグ一辺倒で終わる作品でない事を真に理解させられたコマはどこだったかを思い返していました。

そこで、今回は自分にとって「はなまるスキップ」に多面的な作品性が存在する事を、ある種の痛快さを伴って受け入れることができたコマが一体どこであったか、そしてそれを経てからどのような作品の見方を手に入れたかについて雑然と話したいと思います。

このコマで作品の見え方が変わりました。シェフ子の特徴を明確に話のヤマとして浮かび上がらせた瞬間の事です。f:id:LadyXLadyPump:20210817201110j:imageはなまるスキップ1巻108ページより

シェフ子はSNS(イソスタ)に自作料理の写真を投稿する、インフルエンサーです。

「はなまるスキップ」はこの料理上手なインフルエンサーが陥る心理をとても巧みに描いています。

シェフ子の料理はSNSで評価されていますが、それは見た目やレシピが中心の話です。料理を作る意義の一つである、自分が作った料理を食べて、喜んでくれる大切な存在が居ませんでした。

得意な料理ですらもSNSでの繋がりしか持てなかったシェフ子の心の中に、SNSでは満たされることのない部分が避け難く生じる事が分かります。

そうしたシェフ子の作った料理を食べ、味を褒めた星見はるは、シェフ子にとってのアイデンティティである、料理の全てを認めてくれる存在として、シェフ子に受け入れられるようになりました。

シェフ子にとっては側にSNSがあるのが基本でありますが、それだけでは満ち足りない部分を満たしてくれる人こそ特別な存在だとシェフ子は信じて疑いません。そしてその人達がいる場所を特別な居場所だと受け入れています。極めて現代的な価値に即した生き方をしていると言えるでしょう。

シェフ子のように個人を構成する価値観を十分に忍ばせたキャラクターから、構える事なくドラマを繰り出す事ができるのは、「はなまるスキップ」の紛れもない美点です。f:id:LadyXLadyPump:20210817201242j:imageはなまるスキップ1巻13ページより

そして最後になりますが、「はなまるスキップ」を読んで感じ取る事のできる時代性とは、時事ネタを豪胆に仕掛ける作風よりも、むしろこういったキャラクター造形の部分に凝縮されている事を申し上げておきたいと思います。